2003年10月山形県国民文化祭で皇太子同妃両殿下ご臨席のもと、作曲者自身の独奏・指揮によって世界初演された。 2004年10月小松長生指揮、コスタリカ国立交響楽団、小曽根真独奏により海外初演された。 3つの楽章を通して、「最上川舟歌」が随所で引用される。 そしてジャズピアニストの天賦の即興が、オーケストラと有機的に絡まりながら展開して行く。 小曽根氏が最上川の美しい風景、哀しい歴史、厳しい自然の中で生き抜いて来たもがみの人々などにインスピレーションを得て書き上げた。
第1楽章 Allegro
冒頭のピアノ・ソロは、川面に降る夕立を表す。 萌える夏、祭、歌、大地の生気などが鮮烈に伝わってくる。 最上川の川下りの様に音楽を通して景色がどんどんと変わって行く。 この楽章が最もジャズのエッセンスを含んでいる。
第2楽章 Adagio
冬。 最初のクラリネット、バスーン、オーボエの侘びしい三重奏は、厳しい冬に身をこごめる父母子を表し、続く弦楽器は寒々とした雪山と雪原、更には飢饉の為に生まれたばかりの赤子の鼻と口に濡れた障子紙を押し当てたとされる悲惨な歴史をも重複させる。 自然と闘うのではなく、権力を持ってしまった他の人間からの抑圧と闘っている人間の悲しさと怒り。 その怒りや苦しみの絶叫はピアノ及び金管の咆哮でクライマックスを迎える。 やがて夢想的なピアノ・ソロが万感のこもった「最上川舟歌」を背景に聴き、木管の三重奏(三人家族)に収束してほんの少しの希望と暖かさを感じるが、最後には冬の厳しさにもどって楽章が終わる。
第3楽章 Vivace
至高の喜びの音楽である。冬が終わり、春になって新しい命の息吹が聞こえ動き始める。動物達は冬眠から覚め、雪解け水が小川をさっそうとかけ下って行く。どんなに辛い事があろうとも希望を捨てずに頑張って生きる、この世にはその為の希望がいっぱいある、と言うメッセージでこのコンチェルトは幕を閉じる。 筆者は小曽根氏をよく愛称で「アマデウス」と呼ぶが、彼の天性の音楽性が横溢した楽章である。 コーダ直前では、実際にモーツァルト風の室内楽を登場させ、最後は、ハリウッド、バーンスタインなどのブロードウェイが体現した底抜け・無礼講のクライマックスが何の屈託も無く現出される。
最上川の歴史、自然、人々への温かい愛情と敬意に満ちた曲であると筆者は感じる。
2005年9月11日,12日 OSN日本ツアーのプログラムの曲目解説として書かれたものです。
コスタリカ事件
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