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モーツァルト 交響曲第35番 『ハフナー』
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ヴォルフガンク・アマデウス・モーツァルト(1756−1791)
交響曲第35番 『ハフナー』 二長調 ケッヘル番号385 (1783年初演)
オペラ『後宮からの誘拐』(1782)の成功で一躍ウイーンの寵児となったモーツァルトは、 1783年春、皇帝も臨席する超満員のコンサートで本曲を紹介し、空前の大成功を納め音楽の都に確固とした足場を築くこととなった。 前年郷里ザルツブルクのハフナー市長が貴族に取り立てられる事になり、ハフナー家での祝いの食事会、夜会のバックグランド・ミュージックとして急遽6曲からなる「セレナード」を作曲した。 そこから2曲除き、第1、4楽章にフルートとクラリネットを加筆して前述の演奏会で初演した。 第2,3楽章でフルートとクラリネットが休みなのはそうした事情による。
<第1楽章> Allegro con spirito
モーツァルトが「炎のように演奏されるべき」(父レオポルドへの書簡)と述べた第1楽章は、ハフナー市長の爵位授与を祝う慶び、典雅な祝祭的ファンファーレに満ちている。 楽章を通して単一のテーマで書ききり、そのシンプルさもまた直截な歓びの表現に貢献していよう。
<第2楽章> Andante
エレガントな夜会のさざめきが聞こえてくるような気がする。 オーボエとファゴットの唱和が天上のコーラスのように効果的に使われている。
<第3楽章> Menuetto-Trio-Menuetto
交響曲の前身が舞踏組曲であったことを再認識させてくれる、優雅で落ち着いたメヌエット。 中間部のトリオ(もともと3声部の簡易な音楽であったことが、トリオの語源) では、再びオーボエとファゴット、それにホルンを加えた「天使の楽隊」が活躍する。
<第4楽章> Presto
作曲者が「可能な限りの早いテンポで」奏される事を望んだフィナーレは、 華やかな勝利感を顕現している。 冒頭のユニゾンの主題は、 オペラ『後宮からの誘拐』の誘拐・脱出に無事成功した勝利の歌のモチーフであり、そこにはモーツァルトが辟易し嫌っていたザルツブルクの生活からの脱出に成功した喜びも密かに隠されていると見る向きも少なくない。 貴族の気品、喜びの奔流に満ち、全奏者に超絶技巧を要求するフィナーレが、皇帝と満員の聴衆を興奮の坩堝(るつぼ)に落し入れたのは納得が行くところである。
2008年9月12日セントラル愛知交響楽団定期演奏会のプログラム用に書かれたものです。
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