曲目解説集

ヴェルディ 歌劇『ラ・トラヴィアータ』

ジュセッペ・ヴェルディ(1813―1901)作曲

歌劇『ラ・トラヴィアータ』(1853年初演)

仏蘭西の文人アレキサンダー・デュマ・フィス(1824−1895)は、かつて交際していたパリ裏社会の高級娼婦マリー・デュプレシを題材に悲劇的小説『椿姫』を書いた。 モデルとなった彼女は白い椿を好んだため椿の姫(カミールのダーム)と呼ばれていた。 ベストセラーとなり戯曲化され、日本でも水谷八重子、坂東玉三郎、美輪明宏、大地真央などが演じている。 舞台化された『椿姫』を滞在中のパリで観て感激した伊太利亜(イタリア)の作曲家ヴェルディは、『ラ・トラヴィアータ』(道を誤った女)との題で歌劇を作り、今日最も人気の高いオペラのひとつに数えられている。

贅沢と孤独の砂漠の中で心身ともに疲れ切っていた主人公ヴィオレッタ(ソプラノ:女声高音)は、身の程や状況もわきまえずひたすら自分を恋い慕う青年アルフレード(テナー:男声高音)との出会いに衝撃を受ける。 美貌と深い教養を備えた彼女が、明らかに精神的成熟度も知性も劣るナイーブな田舎出身の青年に、これほどまでに魅かれ明日の逢瀬も約束してしまう自分に驚く。 この人智を超えた宿命的なソール・メートとの出会いは、前半のクライマックスとなる。

二人がパリ郊外に愛の巣を構えた後に登場するアルフレードの父ジェルモン(バリトン:男声中低音)は、絵に描いたような旧弊な考え方の頑固な田舎紳士であるが、嫉妬と怒りに狂って夜会でヴィオレッタに非道な行いをする息子を強く叱り、また最後には自分のした事(別れをヴィオレッタに強要)の誤りと冷酷さを深く悔いる良心的な人物として描かれる。 駆けつけたアルフレードとジェルモンに見守られながら死ぬ間際のヴィオレッタが、奇跡がおきて苦しみが消え自分が完全に直ったと感じそして崩れ落ちる場面は、真の愛を遂に見い出し又赦しをジェルモン父子に施した事によって、「道を誤った女」みずからが赦し癒されて天国に昇って行ったことが暗示されていよう。

この解説文は2008年7月29日セントラル愛知交響楽団ナカネットサマーコンサート特別演奏会のプログラム用に書かれたものです。


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