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チャイコフスキー 交響曲第5番
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ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840−1893)
交響曲第5番 ホ短調 作品64(1888年初演)
当時タブーとされた同性愛の噂の渦中に若きアントニナ・イワノワナと結婚して短期間で破綻、入水自殺を図った翌年に書かれた交響曲第4番(1878年)以来10年を経て、1888年創作力の枯渇感に苦しみながらも、ようやく第5番が作曲された。 「交響曲は、ときに、心奥に潜む言葉では尽くせない激情を正直に吐露する形態であってもよいのではないか?」と彼は語る。 第1楽章冒頭のクラリネット2本のユニゾンによる「宿命テーマ」は、全ての楽章に登場する。
<第1楽章> Andante: Allegro con anima
暗く孤独で問いかけるような宿命テーマは、グレゴリア聖歌「怒りの日(ディエス・イレ)」の音形を包含し、クラリネット2本により序奏で提示される。 続く Allegro con anima では、暗闇の中を心細く歩む死後の魂が、孤独感、心中の相克、そして楽園への憧憬を語る。
<第2楽章> Andante cantabile, con alcuna licenza
この楽章は、チャイコフスキーの全ての交響曲中、愁眉の楽章であると筆者は信ずる。 あたかも安息の夢の世界に立ち入った如く始まりホルン・ソロが第1主題を奏する。 弦による第2主題、クラリネットによる中間部の第3主題双方ともが感情の爆発へと高揚される。 結尾部直前、『最後の審判』の身の毛もよだつ地鳴りを伴って「宿命テーマ」が金管群により突然鳴り響くが、眠りに落ちるように再び束の間の安息の世界に戻ってゆく。
<第3楽章> Valse: Allegro moderato
7
イタリアのフローレンスの街角で耳にしたメロディーを引用したワルツである。 コーダでは、「宿命テーマ」が遠景で響く。
<第4楽章> Andante maestoso: Allegro vivace
冒頭「宿命テーマ」が、勝利の歌として長調に変容して登場する。 序奏の後は、 その勝利に至るまでの戦いと充溢した決意が駆け抜けるようなテンポ感で表現される。 そして金管の強奏、目くるめく昂揚の中、 曲は締め括られる。
2005年7月15日 セントラル愛知交響楽団定期演奏会プログラムの曲目解説として書かれたものです。
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