アントニン・ドヴォルザーク (1841−1904)
序曲 謝肉祭 作品92(1892年世界初演)
作曲者自身が『自然、命、愛』と銘打った序曲3部作の最後にあたる本曲は、めくるめく謝肉祭の生命力に溢れている。中間部では、イングリッシュ・ホルンの調べに導かれて、ボヘミアの美しい森林、せせらぎ、夜空などが繊細に描写される。
アントニン・ドヴォルザーク (1841−1904)
チェロ協奏曲 作品104 (1896年世界初演)
新世界交響曲を生んだ3年間のニューヨーク時代(1892−95)に書き始め、プラハに戻ってから仕上げた作品である。従来は独奏者の裁量に任されていたカデンツァ部分も詳細に書き、音楽的文脈の一貫性を保った。独奏者の技量の開示を優先しオーケストラが伴奏する古典的協奏曲の域を超え、交響曲の観を呈する。
<第1楽章> Allegro
暗闇から始まる葛藤の歩みに続き、チェロが堅い意思、憧憬、愛を歌う。楽章を通じて陰と陽が交錯し、勇敢な宣誓と行進で締め括る。
<第2楽章> Adagio ma non troppo
素朴な村の教会のオルガンを表現した木管の前奏。チェロは聖歌を奏する。中間部で「怒りの裁き」を象徴する恐ろしい響きが二度鳴り渡るが、それを憂えかつ鎮める如くに彼の歌曲 “Kezduck muj sam”(独りにして)が引用される。昔秘かに思慕したジョセフィン・カウニックへの追悼の気持ちで、彼女が生前好んだ歌曲を入れた。やがて聖歌がホルン三重奏で再現され、独吟的チェロのカデンツァは、鳩、天使を表すフルートと溶け合って、天国・桃源郷を現出する。
<第3楽章> Finale: allegro moderato
決然とした闘いの行進で始まり、美しい自然、生命との調和がめでられる。最後に第1楽章の主題をノスタルジックに回想し、この壮大な協奏曲は幕を閉じる。
アントニン・ドヴォルザーク (1841−1904)
交響曲第8番 作品88(1890年世界初演)
モルダウ川に面した小さな町の肉屋の息子として生まれたドヴォルザークは、田舎の民衆の生活、音楽、風習を生涯大切にした。本曲は、ボヘミアの音楽と踊りが全篇に溢れているが、各々の美しいメロディーはいずれもドヴォルザーク自身のものである。
<第1楽章> Allegro con brio
孤独なチェロで始まる。鳥がさえずり、森はこだまし、自然の荒々しさが、極めて簡素な管弦楽法で描かれる。
<第2楽章> Adagio
森の中でたたずむ。鳥や動物、様々な精と戯れる。中間部の「嵐」を経て、深遠な自然と一体化してゆく。
<第3楽章> Allegro grazioso
スケルツォ・トリオの範疇を超え、哀愁、温かさに満ちたワルツとして書かれている。
<第4楽章> Allegro ma non troppo
民衆の祝いの音楽。デュムカ(ポルカの一種)が、チェロとオーケストラ全体によって緩急対照的に奏される。冒頭のトランペット、途中のフルート・ソロも印象的である。ボヘミアの村の人々の靴音と歓声が聞こえてくるようだ。
2005年11月11日セントラル愛知交響楽団定期演奏会のプログラムの曲目解説として書かれたものです。