耳慣れないもの、一般常識に反したものに接すると、往々にして拒絶反応をおこし、攻撃的にすらなるのは、人間の性(さが)であろう。
ベートーヴェンは交響曲第九番で、従来の作曲概念にとらわれず、真向から真理を探し求める過程を体現した。
彼の孤独感はいかほどであったろうか。最終楽章のバリトン・ソロは、そうした求道者の心情を吐露し、テナー・ソロは、内面の戦場へ誇り高く赴く真の勇者の心を歌い上げる。それに引き続く、弦楽器を中心とした対位法による戦いの描写は、ただ凄絶である。
そして、困難を克服した人々は、ギリシアの神殿にて、司祭たちと儀式の唱和をとり行い、星空の向こうに居る絶対的存在に思いをはせる。シラーの詩は、宗教、習慣(Mode)の違いによる差別を激しく否定する。
ひろく真理を追い求め、絶対的存在を崇める者には最高の歓びがもたらされるという賛歌である。
縁あって、皆様とこの傑作の素晴らしさを分かち合えるのを幸運に感じる次第である。
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