横顔

ようこそ栃響へ、そしてありがとう
栃木県交響楽団
金田寛子さん


いつもより早めに家を出た。練習場は30分前だというのにすでにイスが並べられ、小松先生との初顔合わせに団員の緊張感が伝わってくる。事前にいただいたプロフィールで、「アマオケは京大しか振ったことが無く、耳の為にプロしか相手にされない」「燕尾服に身を固め、ポーズを決めたブロマイドのマエストロ」とは一体どんなお方なのか?

一振りするなり「帰る」と言われはしまいか? 不安と期待と興味とで胸をドキドキさせながら、静かにチェロの準備を始めたその時、事務局の細小路さんに伴われて一人のアロハシャツにバミュ−ダ姿の浅黒い青年が登場。「新入団員それも留学生か?小松先生の関係者か あれれ?!」私はキョトンとして会釈をしました。インペクよりアンコ−ルのハンガリアンダンスの譜面が配布され、「小松先生はこの曲から振られます。」との事。 「まだ一回も合わせていないのにうまくいくかな?」心配は極致に達していく。いよいよ練習開始だ。

指揮棒を持ってマエストロ登場、なんと先ほどのアロハの青年。考える間もなくタクトが上がり、すごい迫力にオケはついていけず仕切りなおし。最後まで通すのが精一杯。すさまじいばかりのテンポとリズム、ダンスチックな流れ、すばらしい!
 
今までの栃響の曲想にはないシンプルさが新鮮だ。先生と一体となって奏でるブラ−ムスの4番はどんな曲に変貌するのか ワクワク感が指板上の指をなめらかにしていく、まるでマエストロの魔法にかかったように・・。先生は「指揮を見るよりも、お互いのコンタクトを大事にするように」と勧められましたが、オーケストラを引っ張っていくときの形相は、まるで日光東照宮の運慶の仁王像の様で、思わずひきこまれてしまう。
 
ブラームスの4楽章のコラール「至福の時」は、マエストロの思い入れがひしひしと感じられ、私はますますブラームスを愛してこの曲を完成させたいと必死にもがき先生の指示に従いたいのですが、技量のなさが悲しい・・・・。先生との初めての練習の後、皆の顔に笑みがこぼれ、ブラームスへの新たなる取り組みの意欲が湧き上がりました。
 
二宮町の演奏会では、ブラ−ムス4番の2楽章の冒頭で、指揮棒が2ndVnめがけて弧を描き、スローモーションビデオを見ているようでしたが、演奏は今までになくうまく流れていきました。木管、金管が奏でたすばらしいハーモニーに感激(驚き?)して、思わず手をすべらせたそうです。その後、心臓を一掴みにしてしまいそうな先生の左手が強烈に団員をひとつにまとめ、終演後はなんともいえない充実感と爽やかさを味わいました。汗でビショビショになった礼服(まるで服を着たまま上からシャワ−を浴びたのかという感じ)を載せての帰り路、アマチュアオケにこんなにまで真剣に誠意を持って接してくださるマエストロに感謝の気持ちで一杯になりました。
 
真摯な指導のもと、時折心をなごませようと福井なまりでユーモアを語られ、団員のメ−ルにすぐ返事をくださるなど、厳格にして繊細で思いやりのあるすばらしい先生に巡り会えて私の人生がまた豊かになりました。アマチュアを振るのは、プロを振るより大変だというポリシィがあって今まで拒否なさっていたということ、そして今は子供たちの育成にも力を注がれていることを伺い「人には時が備えられている」と実感いたしました。
 
逃げ隠れのできないブラームスへの挑戦を快諾していただき、ありがとうございました。また是非先生のタクトのもとに、ベ−ト−ヴェンを弾いてみたい(個人的意見)と考えるこのごろです。無理を申してごめんなさい。

これからのご活躍を心から応援いたします。



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