横顔

オーラはいざなう
日本絵染め協会 家元
菊地エミさん


当時お住まいだったボルティモアから車で小一時間、当ワシントンでの美術展のレセプションの席で初めてお会いしました。初対面に受けた印象は、あたかも竹馬の友の『弟」というか、懐かしい親しさは今も変わりません。

小松長生自伝エピソード傑作集のひとつに、ニューヨ−クの雑踏をぼんやり歩いていると、日本人観光客とおぼしき一団が彼を指さし何やら思惑ありげに話している。前を通り過ぎようとすると、親しげに「・・・あんたナントカという香港のアクションスターか・・・」と、サインを求められたそうです。外国人かと思いながら日本語で話し掛ける人も大胆ですが、一方、小松氏には人をすっかり魅了する何かがあるのです。「ボク違います、スミマセン」とにこやかに返事をして、あっけにとられる一団を通り過ぎたそうです。

おそらくジャッキー・チェンあたりがニューヨークを闊歩しているような風情で、異彩を放ちつつ、しかも人を懐かしい思いにさせる、そんなオーラが際立っていたのでしょう。実はその道の凄い達人なのに普段はそんな素振をみせない、本物の実力者が漂わせる雰囲気が似ていたのかもしれません。

小松氏と話していてドキッとすることがあります。私の話を聞きながら、ふと鋭い顔をなさるのです。その迫力ある表情につられて「ああ、これは重要なんだな」と話す本人が再確認する次第です。作曲家のメッセージを聞き取り、楽員のかもし出す音を問いただす、マエストロの「聞く人」の一面なのでしょう。

評価の厳しい北米、東西ヨーロッパで育まれ、研ぎ澄まされ選りすぐられた音楽観、世界観。それを独特のオーラで包んで、懐かしく親しみやすいものにしして我々に届けてくださる。さらに時折ピリリと鋭い、氏ならではの生粋の深淵さをのぞかせるその絶妙さは、エネルギッシュな人柄とあいまって、聴衆を魅力あるシンフォニーへ誘うのです。



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